2022.9.12
マーケティング概念の変遷とマーケティング5.0
時代とともにその概念(意味・役割)が変わってきた“マーケティング”。
マーケティングの神様と呼ばれるフィリップ・コトラー氏は、それぞれの時代のマーケティングの特徴を説明する用語として「マーケティング1.0」~「マーケティング 4.0」を提唱してきましたが、2021年2月、新たな考え方となる「マーケティング5.0」を提唱しました。
今回は、これまでのマーケティング概念の変遷と、マーケティング5.0の内容についてご紹介します。
マーケティング1.0~4.0の変遷
マーケティング1.0<1900~1960年代>
マーケティング1.0の概念は「製品中心のマーケティング」です。
マーケティングという言葉が生まれた1900年代は、需要が供給よりも多く、より安くすれば売れるとされていました。そのため、「商品をできるだけ安く売り、利益を最大化させる」ことがマーケティングの目的であり、大量生産によりコストを抑える戦略が主流でした。
製品と価格で需要をコントロールできたこの時代は、企業がお客さまに対して優位に立てる時代であったといえます。
マーケティング2.0<1970~1980年代>
マーケティング2.0の概念は「顧客志向のマーケティング」です。
1970年代に入ると経済が豊かになり、売り手と買い手のパワーバランスも大きく変化しました。市場の価格競争も進み、類似製品などが多く出回るようになったことで、消費者は数ある似た製品の中から選択して購入するようになりました。「ただ安いモノを作れば売れる」という売り手優位の時代から買い手優位の時代となったのです。
そのため、マーケティングでは顧客の「ニーズ」を知ることが重要となりました。
ただ安く作るのではなく、競合との差別化によって顧客のニーズを満足させることに注力されるようになったのが、この時代の特徴だといえます。
マーケティング3.0<1990~2000年代>
マーケティング3.0の概念は「人間中心のマーケティング」です。
1990年以降、インターネットの普及と同時に市場も成熟し、製品が優れていることは当たり前になった中で、「どのような想いで作られたのか」「社会課題に対してどのような価値があるのか」というような企業の社会的責任も消費者から重要視されるようになりました。
企業は製品を作って売るだけという存在から、社会とより良い関係を築く存在になることが求められるようになったのです。
顧客とともに社会への価値を共創していくことこそが最終的に製品の売りにつながると考えられるようになったのが、この時代の特徴です。
マーケティング4.0<2010年代>
マーケティング4.0の概念は「自己実現のマーケティング」です。
2010年代になると、ソーシャルメディアやブログなどの普及により、消費者は「環境への配慮」のような社会的価値だけでなく、「自己実現」のような精神的価値を満たす製品を求めるようになりました。多くの消費者が購入した製品をソーシャルメディアやブログを通じて情報発信するようになったため、企業は顧客の購入後の行動まで考える必要が出てきたのです。
ただ製品を購入してもらうだけでなく、オンライン・オフラインの両方で顧客エンゲージメントを向上させ、製品やブランドのファンになってもらうこと、そして周りに推奨してもらうことが重要になってきたのが、この時代の特徴です。
新たに提唱されたマーケティング5.0とは?
そして2020年代の概念として新しく提唱されたマーケティング5.0。コトラー氏は次のように定義しています。
『マーケティング5.0とは、人間を模倣した技術を使って、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めることだ』
フィリップ・コトラーら「コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略」 (2022)
つまり、ビッグデータやAI、IoTなどの最新テクノロジーを駆使して顧客体験価値を高める時代ということ。マーケティング4.0でも顧客体験の向上が重要視されていましたが、テクノロジーの進展に伴い、それらの最新技術を応用した新たな価値提供が求められるようになったのです。
マーケティング5.0が提唱された背景は、「最新テクノロジーの出現」そのものだけではありません。デジタルネイティブ世代の登場や健康寿命の伸長による顧客の多様化、世代間の購買行動のギャップ拡大、プライバシーやセキュリティーに関する問題など、マーケティング上で直面する課題も背景にあるとされています。
マーケティング5.0を構成する5つの要素
マーケティング5.0は、2つの「(組織の)規律」と3つの「アプリケーション」を軸に構成されており、これらを実現することが必要となります。
①データドリブン・マーケティング
あらゆる決定は、十分なデータに基づいて行われなければならないという規律です。
これを実現するためには社内外の様々な情報源からデータを収集しなければいけません。データの収集・分析・解釈の一連の流れを自動的かつ最適化するためにデータエコシステムを構築することが、組織としてまず取り組まなければならないことになります。
②アジャイル・マーケティング
絶えず変化する市場に対処するために、組織の俊敏性が必要です。そのためには、分散型・部署横断型のチームを作り、製品やマーケティング・キャンペーンのコンセプト作り、設計、開発、検証を迅速に行うことが求められます。状況に応じて素早く開発、改善を行いながら成長していくイメージです。
③予測マーケティング
機械学習を用いた予測分析ツールを使用し、マーケティング活動の結果を開始前に予測するプロセスのことです。マーケター自身の過去の経験や勘に頼って予測するのではなく、テクノロジーを活用して市場の反応を予測する活動です。
④コンテクスチュアル・マーケティング
顧客の文脈(経験・記憶など)に沿ってパーソナライズしたマーケティング活動のことで、IoTや様々なデジタルデバイスから得られるデータを活用して、リアルタイムの1to1マーケティングを実現することを図ります。
例えば、天候データやウェアラブル機器から収集した顧客の健康情報を活用して、最適な内容の広告を最適なタイミングで顧客に提示することができるでしょう。
⑤拡張マーケティング
マーケターの生産性向上のために、例えばチャットボットやバーチャル店員などのような人間を模倣した技術を利用することを指します。
マシン・技術との共生により、マーケターの希少な人的価値をより速く、より賢くはたらかせることを狙います。
終わりに
これまでのマーケティングに求められてきたこと、そして今後のマーケティングに求められることをまとめました。
マーケティングに携わる者として、ここまでの変遷やその背景をしっかりと理解し、今後の変化にも敏感に反応できるようになりたいと思います。
この記事を書いた人
古賀舜平
2018年4月メンバーズ入社。これまでに複数のクライアント企業様のソーシャルメディアマーケティング(戦略設計/運用/広告)を担当。