2021.9.16
「アーティスト」から「ソーシャルアーティスト」へ
~障がいのある方による社会課題の解決に向けたアートでの発信~
体が不自由だったり、脳の発達が遅れていたり、難病を抱えていたりする方々……そんなイメージを障がいのある方に持っていませんか。そのような「特別な支援が必要な人」という固定観念を覆す試みがメンバーズグループで行われています。それが子会社である株式会社メンバーズギフテッドが提供する「Social Art Japanプロジェクト」です。
Social Art Japanプロジェクトの目的
このプロジェクトを一言で表すなら、「障がい者を社員として雇用することで経済的自立を支援しつつ、社会課題に関する美術作品の制作をしてもらい、展覧会やSNSでの発表を通じて人々の行動を変える契機を創出する」ことを目指しています。
難しいことを言っているようですが、要するに、従来は「特別な支援が必要な人」であった障がいのある方々が、経済的な自立を実現した上でアートの制作という得意分野で創作活動を継続することができるというプロジェクトです。別の言い方をすれば、自分の内面や感じたことを表現する「アーティスト」から、社会課題の解決に取り組むクリエイティブとしての「ソーシャルアーティスト」として活躍してもらおうとしています。
メンバーズは「ソーシャルクリエイター(※)」を世に送り出そうと活動していますが、両者の違いは「ソーシャルクリエイター」が情報発信のプロフェッショナルで、コンテンツ(商品)の開発などはクライアントが行うのに対し、「ソーシャルアーティスト」は作品の主題の決定からどのような構図を採用するかまで、制作に関する一連の業務を独占的に行います。
※ ソーシャルクリエイター
デザイン思考を持ち、ビジネスの推進や制度設計、アウトプットを通じて社会課題の解決を図ろうとするクリエイター(職人)志向性の高い人材のこと。
プロジェクトの特長
2020年6月にプロジェクトが立ち上がって一年以上が経過しましたが、ここに至る道のりは決して簡単ではありませんでした。
理由の一つは、Social Art Japanが新しいビジネスモデルを提示していたので、参入障壁のようなものがあったからだと思います。
従来のモデルでは、福祉作業所に所属する障がいのある作家が作品を作り、それが仲介業者を経由してギャラリーや企業で販売されていました。作品の販売による利益は半分程度は作家に還元されるものの、残りは中間マージンとして接収されます。
それらの従来モデルに対して、今回のSocial Art Japanでは、メンバーズ社などの首都圏企業が作家を障がい者枠で社員として雇用し、定額の給与を毎月支払う点が異なっています。
加えて、作家のサポートや作品の管理はメンバーズギフテッド社が行います。これまでも障がい者雇用でアーティストを採用する企業はありましたが、障がい者アーティストを他の企業に紹介する事業は先進的な取り組みと言えます。
現在の採用状況
現在までに11人の障がいのあるアーティストがメンバーズに入社しました。在宅雇用を基本としているので、アーティストの仕事場は自宅になります。
全国各地のアーティストがリモートで繋がってミーティングやワークショップを行います。
注目されるのが、首都圏や関西に在住する作家は3人しかおらず、残りの8人は北海道や九州、北陸などの地方在住のアーティストであることです。
都市部であるほど就労支援(B型)作業所の数が多く、アーティストはすでに所属が決まっている場合があります。
一方、地方は一般的に自宅から作業所までの距離が遠いので、アーティストは自宅をアトリエに活動する傾向にあり、そういう方は個人のホームページやSNSで積極的に情報発信しています。
そういった事情もあり、地方在住のアーティストたちと繋がることができました。言い換えれば、居住地に縛られないIT企業である強みを生かして、地方を開拓することができたと言えます。また、在宅雇用は採用する企業側にもメリットがあり、オフィスの拡大や管理コストの抑制が期待されます。
活動内容とサービス概要
アーティスト社員には、毎月2作品を提出してもらうことを求めていて、一つは社会課題に関する作品、もう一つは自由なテーマの作品としています。社会課題に関する作品は、これまでに気候変動問題とジェンダー、人口減少などについて制作してもらいました。課題作品と自由作品の制作を支援するため、月にセミナーを2回行っています。ソーシャルセミナーでは社会課題に関する講義(インプット)とディスカッション(アウトプット)を行います。アートセミナーも同様のアジェンダで行います。社会課題は翌月の課題作品のテーマをやりますが、アートセミナーでは業務で認められていない展覧会訪問などを補う目的があります。また、アーティスト社員は業務としての制作に集中して取り組めるように制作支援相談が月に一回予定されており、継続して働けるように障がいに関する雇用支援も月に一回受けられます。どちらも専任のスタッフを入れていますので、専門的な立場からの助言やアドバイスを受けることができます。
作品の公開・発信
制作していただいた作品は、SNSや展覧会で社外に発信されます。毎月の提出作品はインスタグラム@social_art_japanで公開していますが、英語で紹介している点が特徴として挙げられます。これはSocial Art Japanというプロジェクト名が英語表記となっていることからも分かる通り、海外の市場を意識したものです。
現状では海外で作品を高く売りたいというよりも、国際的に評価されるアーティストを輩出し、逆輸入する形で日本での評価も高めたいと考えています。
一方、展覧会は各自治体に設置されている持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指している部署と組んで行います。名前は出せないのですが、現在一つの展覧会がすでに期日を待っている状況で、もう一つの展覧会の話も進んでいます。また、自由作品は全国にあるメンバーズ社の拠点に設置されるほか、将来はクライアントへ贈呈するなどの使い道を考えています。
まとめ
最後に本プロジェクトの特徴を上げると以下の3つです。
第1に、これまでは支援を受ける対象であった障がいのある方が、アートの制作を通じて主体的に社会課題の解決に関わることで、持続可能社会への変革をリードする主役となることです。
第2に、気候変動やジェンダー、人口減少などの社会課題に関する作品をSNSや展覧会で発表し、人々の行動を変えるきっかけ作りを行います。
第3に、在宅雇用を推進することで、地方の障がい者を首都圏企業の給与水準で雇用し、地方経済の活性化を実現します。
入社前には自己実現を目指す「アーティスト」として活動していた方々を、社会課題を解決するための情報発信を担う「ソーシャルアーティスト」として活躍していただけるよう本プロジェクトを推進していきます。
この記事を書いた人
池田 篤史
株式会社メンバーズ ビジネスプラットフォームカンパニー所属 2020年中途入社。学芸専門スタッフとして、セミナー講師、作品管理、制作相談、採用活動などの業務に従事。趣味はバレーボールと海外旅行。